犬の乳腺腫瘍

症例

15歳3か月 MIX犬 避妊雌(避妊の時期に関しては不明)

来院理由

腹部にできものがある。

身体所見

左心尖部でGradeⅢの心雑音が聴取された。
右第3-4乳腺間に3㎜、第4-5乳腺間に10mmの皮下腫瘤を認めた。

検査

【腹部超音波検査】
胸部:僧帽弁逆流が認められた。心房拡大、心室拡大は認められなかった。
→僧帽弁閉鎖不全症 ACVIM ステージB1と診断。
腹部:胆泥が認められた。

【レントゲン検査】
胸腹部共に異常は認められなかった。

【血液検査】
肝酵素の軽度上昇が認められた。

【細胞診検査】
上皮細胞塊が採取された。異型性は軽度であった。

治療方針

外科的に切除を行った。
複数個乳腺腫瘍が認められたため3-5乳腺を切除する領域乳腺切除術を行った。(図1-3)


図1 小さい丸で囲った部位に腫瘍が認められる。大きい丸で囲った部位は切除する範囲を示す。


図2 切除後


図3 切除した乳腺と腫瘍

経過

病理検査の結果は小さい腫瘍は単純乳腺腫(良性腫瘍)、大きい腫瘍は複合乳腺癌(悪性腫瘍)であった。悪性腫瘍の方は比較的低悪性度(組織学的グレード1)で完全切除ができているため抗がん剤等の加療は不要と判断した。
現在のところ新規病変も認められず経過良好。複合乳腺癌の方は再発、転移の可能性が0ではないため今後も経過を追っていく予定。

担当獣医師

小島 大輝

獣医師からのコメント

乳腺腫瘍は高齢の未避妊の子でよくみられる腫瘍です。良性のものと悪性のものがありますがその判断は切除して病理検査を行わないと確定することができません。大学病院等の高度医療施設以外の病院では良性の腫瘍の割合のほうが多いと言われています。しかし良性のものが悪性腫瘍に変化していく可能性があることも分かっており、そうすると転移を考える必要があったり切除の範囲が大きくなったりするため、早めの対応がその後の寿命を左右するケースもあります。治療は手術により腫瘍とその周りの乳腺も一緒に切除することもあり、腫瘍だけ切除する、腫瘍の場所に一致した乳腺のみ切除する、この子のように3-5乳腺(もしくは1-3乳腺)を一括で切除する、片側の乳腺をすべて切除する、左右の乳腺を全部切除する方法があります。診断名によっては術後に抗がん剤や分子標的薬を使用するケースもあるのでその子にとって最善な治療法をお伝えしていきます。

また一部の乳腺腫瘍は炎症性乳癌という状態に変化します。この炎症性乳癌は激しい痛みを伴い、外科も不適応で数か月の余命宣告をしないといけないような極悪の腫瘍です。(炎症性乳癌のページはこちら)

腫瘍化に関してはホルモンの影響が関与しています。避妊手術のタイミングが予防率と密接な関係があり、初回発情前に避妊手術を行うことで99%以上の確率で将来の乳腺腫瘍の発生を防ぐことができると言われています。その後予防率は下がっていき、2回目の発情後は新たな乳腺腫瘍の予防効果はなくなってしまいます(それでも子宮蓄膿症や卵巣腫瘍等の病気を予防できるため避妊手術に関しては年齢問わず実施をおススメします)。

腫瘍ができる場所周辺は毛で覆われており、小さいと見つけることが困難で健康診断時に偶然見つかるケースも多く経験します。気になる方は是非一度診させてください。

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