先天性腎低形成

症例

年齢:3歳5か月
動物種:猫(アメリカンショートヘア)
性別:去勢雄

来院理由

食欲不振、活動性の低下および便秘を主訴に来院した。
数日前から食事量が徐々に減少し、普段より活動性も低下していた。
また、排便も認められず、元気消失が持続していた。

身体所見

身体検査では、口腔粘膜の乾燥および皮膚ツルゴールの延長を認め、中等度の脱水状態と判断した。

検査

血液検査では、BUN 138.3 mg/dL(基準値:17.6~32.8 mg/dL)、CRE 9.51 mg/dL(基準値:0.90~2.10 mg/dL)と著しい上昇を認め、重度の腎機能障害が示唆された。さらに、高リン血症および低カリウム血症を認め、腎機能低下に伴う電解質異常を確認した。
腹部超音波検査では、左腎の低形成を認めた。また、左腎盂は約4.9 mmと軽度拡張していたものの、尿管結石や尿管閉塞などの明らかな閉塞性病変は認めなかった。一方、右腎には腎結石を認めた。
以上の所見から、先天性腎低形成を背景とした慢性腎臓病(CKD)の急性増悪、あるいは急性腎障害(AKI)を鑑別に挙げ、治療を開始した。
若齢猫であっても、先天性腎疾患を背景に重度の腎不全を呈する可能性があり、画像検査による腎臓の形態評価が診断上重要であると考えられた。

画像1:腹部レントゲン
右腎結石、右腎代償性肥大(青丸)、左腎低形成(赤丸)
画像2:右腎臓の超音波画像(長径 4.07cm)
画像3:左腎臓の超音波画像、右腎と比較して小さい(長径 2.55cm)
画像4:左腎臓の腎盂拡張

治療方針

入院下にて、
・静脈点滴による脱水補正
・電解質異常の改善
・腎臓療法食への切り替え
を実施した。

静脈輸液により脱水状態は改善したものの、腎数値の改善は限定的であり、十分な改善は認められなかった。
一方、全身状態および食欲は徐々に回復傾向を認めたため、腎機能のさらなる悪化を防ぐことを目的に、自宅で継続可能な皮下点滴療法へ移行した。
飼い主に皮下点滴の実施方法を十分に説明し、自宅での継続治療を開始した。
その結果、初診から第12病日には食欲および活動性ともにほぼ発症前の状態まで改善した。
また、血液検査でも腎数値の改善を認め、腎機能の著しい回復が確認された。

スクロールできます
検査項目正常値初診日第12病日
BUN(mg/dL)17.6~32.8138.327.0
CRE(mg/dL)0.90~2.109.511.81

その後も自宅での皮下点滴と腎臓療法食を継続し、定期的な血液検査による経過観察を行う方針とした。

経過

初診から約2か月が経過した現在も、一般状態は良好に維持されている。
食欲および活動性ともに安定しており、血液検査でも腎数値や電解質に大きな異常は認められず、良好な経過をたどっている。

本症例について

先天性腎低形成とは、生まれつき片側または両側の腎臓が十分に発達していない先天性疾患です。
本症例では左腎の機能が低かったため、右腎が代償性に働くことで長期間正常な生活を送ることができていたと考えられます。しかし、加齢や脱水、何らかのストレスなどを契機に代償機能が限界を迎えると、急激に腎機能が低下し、食欲不振や元気消失、嘔吐、便秘などの症状として現れることがあります。
一般的に腎機能は、血液検査のBUNやクレアチニン(CRE)によって評価されますが、これらは腎機能がある程度低下してから上昇する指標です。
近年ではSDMA(対称性ジメチルアルギニン)という、より早期から腎機能低下を検出できるバイオマーカーも広く利用されています。特に若齢動物や先天性腎疾患が疑われる症例では、BUN・CREに加えてSDMAを組み合わせて評価することで、より早期の診断や治療介入につながる可能性があります。当院では、2026年11月から院内でのSDMA測定を実施しております。
今回の症例では、早期の集中的な輸液治療に加え、ご自宅での皮下点滴療法を継続していただいたことで良好な経過を得ることができました。
先天性腎疾患は完治する病気ではありませんが、適切な食事管理、定期的な血液検査、必要に応じた補液治療を継続することで、生活の質(QOL)を維持しながら長期的に良好な状態を保てる症例も少なくありません。

獣医師からひとこと

腎臓病は高齢の猫だけでなく、本症例のように若齢でも先天的な異常が原因で発症することがあります。食欲や元気の低下など、普段と違う様子がみられた際には、早めの受診が早期発見・早期治療につながります。日頃から定期的な健康診断を受け、大切なご家族の健康を一緒に守っていきましょう。

担当獣医師:丸山純果先生

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